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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)1475号 判決

控訴人

富士港運株式会社 外一名

被控訴人

ダグラス・エム・ケンリツク

主文

原判決を次の通りに変更する。

控訴人等は各自被控訴人に対し金九十四万九千百四十円及び之に対する昭和二十七年十月一日から完済に至るまで年五分の割合の金員を支払うべし。

被控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて之を 分し、その  を被控訴人の負担、その余を控訴人等の負担とする。

この判決中第二項に限り、被控訴人において各控訴人に対し、夫々金三十万円の担保を供すれば仮に執行することを得る。

事実

(省略)

理由

原審証人岩崎千太郎(第一、二回)、児玉一男、鷲尾孝雄、町田国夫(第一、二回)、桜井義邦、田代秋三郎、中島信一、当審証人三好健三、田代秋三郎、田口国夫、岩崎千太郎の各証言、原審に於ける控訴会社代表者兼控訴本人五味義貞訊問の結果並びに右桜井義貞の証言により原本の存在及び成立を認め得る甲第一号証、成立に争のない甲第二号証及び第四号証の二、原審及び当審証人町田国夫の証言により成立を認め得る甲第四号証の一、右岩崎千太郎の証言(但し同人の証言中原審のものはその第二回のものに限る)により成立を認め得る乙第三号証、右中島信一の証言により成立を認め得る乙第一号証を綜合すれば、

(一)  被控訴人が昭和二十七年五月十七日に三協鉱業株式会社(以下三協鉱業と略称する)と被控訴人主張通りの石炭の売買契約を締結し、右契約に基き右石炭を三協鉱業が大洋港運から賃借していた東雲貯炭場(この賃借の事実は当事者間に争がない)に運搬し同所に保管させておいたところ、三協鉱業が約定通り銀行保証のある約束手形を被控訴人に交付せず、右石炭代金の内僅か十万円を被控訴人に支払つただけでその余の支払をせず、同年六月頃から同年九月上旬までの間に被控訴人に無断で多量の右石炭を恣に他に売却したこと。

(二)  大洋港運は右石炭の保管につき三協鉱業に対し保管料、運送賃その他合計二百万円以上の債権を有していたが、三協鉱業がその支払をしないので、大洋港運の取締役岩崎千太郎が控訴会社の代表者なる控訴人五味義貞等と共に同年八月中旬三協鉱業の社長桜井義邦に対し三協鉱業の大洋港運に対する債務の弁済を要求し、当時東雲貯炭場にあつた約二千屯の石炭を売却し、その代金の内から右債務の弁済をすること、もしそうでなければ大洋港運に於て自ら右石炭を売却しその代金を以て債務の弁済に充当しても差支えない旨の了解を得たところ、その後も三協鉱業が石炭の売却をしながら債務の弁済をせず、ついに貯炭量約六百四五十屯を残すに過ぎなくなり、而も三協鉱業が尚石炭の売却を続ける気配が濃厚だつたので、岩崎は三協鉱業との前記了解に基き残炭を処分して債務の弁済に充当すべく控訴会社に依頼して同年九月十三日頃右石炭を控訴会社の浜園貯炭場に移し控訴会社にその保管を依頼したこと。

(三)  被控訴人が右石炭が東雲貯炭場から浜園貯炭場に移されたことを知つて同年九月十二日頃控訴人五味に対し右石炭の内濠洲カライド炭約二百屯(但し当時同貯炭場に残存した同石炭の正確な数量は二百十屯九百二十瓩)が被控訴人の所有に属するから控訴人等において他に処分しないようにして呉れ度い旨申し入れ、控訴人五味が之に対し控訴会社の代表者として当分之を他に移動せず、もし之を移動させる場合には事前に通知すべき旨を約し、その旨を記載した昭和二十七年九月十三日附覚書(甲第二号証)を被控訴人に差し入れたこと。

(四)  大洋港運が控訴会社に雇われてその浜園貯炭場の現場監督の任に当つていた田代秋三郎に右石炭の売却処分の周旋を移頼し、同人の仲介により訴外大塚商事株式会社(以下大塚商事と略称する)及び石橋興業株式会社(以下石橋興業と略称する)昭和二十七年九月下旬右石炭の一部を買い受け、その代金の一部が結局大洋港運から控訴会社に対する荷役料等の債務の弁済に充当されたこと

等の事実を認めることができるけれども、本件にあらわれたすべての資料によつても被控訴人主張のように前記石炭を大塚商事及び石橋興業等に売却処分したのが控訴会社であつて大洋港運ではないことを認めるに足りない。尤も前記甲第四号証の一には大塚商事の証明書として濠洲切込炭七十七屯九百二十瓩の取引先が控訴会社であることを証明する旨の記載が存し、前記町田国夫の証言によれば右石炭は大塚商事が前記の通り買い受けた本件石炭の一部であることを認め得るけれども、原審証人岩崎千太郎(第一、二回)、町田国夫(第一、二回)、当審証人田代秋三郎、岩崎千太郎、町田国夫の各証言と成立に争のない甲第四号証の二を綜合すれば、大塚商事が前記石炭を買い受けるに当り同会社の社長なる町田国夫が田代秋三郎から、大洋港運が控訴会社の下請会社であつて、控訴会社が大洋港運から支払を受けるべき債権につき右石炭を以て貰うべきものは貰つて了い、あとは大洋港運のものなる旨告げられた為右石炭の内甲第四号証の一記載の分が右にいわゆる控訴会社の貰い受けた分であつてその売主が控訴会社であり、その余の分(甲第四号証の二記載の分)の売主が大洋港運であると誤信し、その結果被控訴人の要請に基いて右甲第四号証の一及び二を作成し之を被控訴人に交付したものに外ならないことを認め得るから、右甲第四号証の一を以て大塚商事及び石橋興業に対する前記石炭の売主が控訴会社であることを認むべき資料とするに足りない。然らば本訴請求の原因として大塚商事及び石橋興業等に対する右石炭の売却処分をしたものが控訴人等であることを前提とする被控訴人の主張は理由のないものと言わなければならない。

然しながら前記認定の大洋港運が浜園貯炭場に移された石炭の保管を控訴会社に委託し、控訴会社に勤務する前記田代が右貯炭場の現場監督の任に当つていた事実、及び原審証人田代秋三郎の証言と原審における控訴本人五味義貞の訊問の結果により認め得る田代が前記の通り大洋港運から石炭の売却処分の周旋を依頼された後控訴会社の代表者五味本人にその旨報告して相談したところ、同人から周旋してやるように指示された事実並に前記(二)に認定した事実に徴すれば、右石炭は浜園貯炭場に移された後はもつぱら控訴会社の占有にあり、同貯炭場からの出し入れは控訴会社及びその代表者たる控訴人五味本人において自由になし得る実状にあつたことが認められ、このような実状の下に控訴人等は前記の通り昭和二十七年九月十二日頃被控訴人から右石炭が被控訴人の所有物であることを告げられ、当分他に移動させない旨、及びもし移動させる場合には事前に通告すべき旨約しながら之に違反して同月下旬被控訴人に無断で(控訴人五味義貞は原審におけるその本人訊問に対し大洋港運が本件石炭を処分する時に被控訴人にその旨通知した旨述べているけれども、本件弁論の全趣旨に照らし右供述は信用し難く、他にこのような通知をした事実を認めるに足る証拠がないから、控訴人等から被控訴人に対し前記約定通りの事前の通告はしなかつたものと認むべきである。)田代をして前記の通り大洋港運の為石炭の売却処分をさせたのであつて、その結果被控訴人が右石炭の所有権を喪失し、当時の右石炭の価額相当の損害を蒙つたことは明らかであり、以上認定の経過に徴し被控訴人が右のように石炭の所有権を喪失し損害を蒙るに至つたことは少くも控訴人等の過失に基くものと認むべきであり、右損害は控訴人等においてこれを賠償すべき義務があるものといわなければならない。

しかして原審証人田代秋三郎、町田国夫(第二回)、岩崎千太郎(第二回)、当審証人三好健三、岩崎千太郎の各証言及び原審における岩崎千太郎の証言により成立を認め得る乙第三号証を綜合すれば、右売却処分当時の右石炭二百十屯九百二十瓩の価格は一屯につき金四千五百円、合計金九十四万九千百四十円であつたことが認められ、以上認定の資料に照らし、本件にあらわれた各資料によつては右認定を覆えすに足りない。

然らば控訴人等は各自被控訴人に対し右不法行為による損害金九十四万九千百四十円及び之に対する右不法行為の日の後なる昭和二十七年十月一日から完済に至るまで年五分の割合の遅延損害金を支払うべき義務があり、被控訴人の本訴請求中右支払を求める部分は正当なものとして認容すべきであるが、その余の請求は理由がないから之を排斥しなければならない。

よつて以上と異る原判決はこれを当裁判所が以上のように判定した通りに変更すべきものとし、民事訴訟法第三百八十五条、第八十九条、第九十三条第一項、第九十六条、第百九十六条第一項を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 高井常太郎)

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